THEME

温もりある交流は途絶え、新型コロナウイルスの恐怖は瞬時に国境を越えた。日常は一変し、国内外問わず人の移動は止まり、同じ空の下で各国は分断の危機を迎えている。行きたい場所、握りたい手、吐息の届く距離で、本物に触れたいとする叶わぬ望みを胸に秘め、今日も私たちは空を見つめる。やり場のない病原菌への怒りは社会的不安を増大させ、私たちから他者に対する想像力を容易に奪う。
だが、殺伐とした悲劇的な状況の中でもアートは人類の希望の松明として心の拠り所となっている。社会的距離を保ちながら街中でオペラが歌われた時、人々はどれほど勇気付けられたことだろう。アート作品はオンラインで発表され、アートの新しい提示形式も徐々に見えはじめている。パンデミックは人類を危機的状況に陥れる反面、美術史に優れた名品を生み出す。ルネサンスの遠因にはペストがあったし、スペイン風邪はシュールレアリズムやダダイズムに影響を与えた。逆境において人類は自室に篭った時でさえ空を描き、創造的なアートを生み出してきた。人類は時々の課題を乗り越え、何事もなかったかのように、美しく豊かな時を刻む。

新しい美術運動の胎動を察知するのはまだ時期尚早かもしれない。しかし「World Art Tokyo Beyond That Blue」においては、作品そのものと、キュレーションからその片鱗が幾ばくか感じられるだろう。国際的に人の移動が制限される中、海外に出自を持ちながら日本を愛してやまないアーティストたちの視点を通じ、私たちが当たり前と考えていた、かけがえのないものが浮かび上がる。私たちの独自性や新型の疫病で露呈したグローバル社会の課題を多角的に捉える契機にもなるはずだ。

オンライン上で繰り広げられる煽情的でコミュニカティブなリモート・アートから一時離れ、他者のノイズなき状態で作品と一対一で向き合ってみてはどうだろうか。日本を愛する異国のアーティストの魂と濃密に対峙し、同じ時代に、同じ空を生きる人間の感性と尊厳に想いを馳せたい。

再び訪れるかも知れぬ疫病に十分に備えながら、限られた一瞬を尊ぼう。
ここでしか出会えないときめきを噛みしめながら、アートの与えてくれる限りない創造性の讃歌を、東京の大空のもとで確かめ合おう。空を越えて集う、今日という日に。

キュレーター

一ノ瀬健太
一ノ瀬健太
1985年 新潟県生まれ。2016年東京藝術大学大学院美術研究科芸術学科修了。現在、同大学院博士後期課程に在籍。地方創生アーティストとしても活躍し、キュレーション、プロジェクトなど幅広く文化事業に携わる。上野界隈で若手アーティスト支援を行うプロジェクト・藝を育むまち同好会の事務局長を務める。「Future Artists Tokyo 2019」展(アートフェア東京 2019・東京国際フォーラム)、「上海アートフェア 2019」COARTZブース(上海)、「シタマチ.アートフェス」(上野・湯島)

キュレーターからのメッセージ

新型コロナウイルスがいよいよ収束を迎え、第二波を警戒しながら展示の運びとなりました。
今回のキュレーションさせていただくテーマは空です。
3月のWorld Art Tokyo及び関連展示準備の最終段階で中止が決まった時、私は半ば無意識に近い状態で各会場を巡りました。人気のないゴーストタウンさながらの場所で私は天を仰ぎました。メイン会場となる東京国際フォーラムで本展のテーマであった幾重にも重なる梁の天井を見上げた時、その先に空があることに気づきました。
この空の下、すべてが繋がっている。
当時、世界の終末とも思えた渦中で、不思議と安心感を感じたことを記憶しています。離れ離れになっているアーティスト一人ひとりの顔を思い浮かべながら、身体の奥から温かな連帯感が湧いてきました。祈りにも似たありがたい気持ちに浸りながら、もし再び展示を行う機会に恵まれたのなら空をテーマにキュレーションを行おうと緊急事態宣言の中で構想を練っていました。
本展が社会の各所でベストを尽くす人々の癒しとなり、明日を生きる活力となれば幸いです。
今も最前線で現場に携わる医療関係者の皆さんに敬意を込めて。